禍津日の韋駄天
闇の帳を突き抜けて 一条の閃光(ひかり)が懸ける。
誰にも縛られない 強い光はただ 暗闇を駆ける。
それだけの為に 全てを投げ出して ひたすら 駆ける。
※
深すぎる哀しみは 全ての感情を消してしまう。
涙も流せず 動く事も出来ず 嘆く事も出来ず
ただ 朱に染まり 動かない君を 眺めるだけ。
「一体誰が」
呟く言葉に 答える者は どこにもいない。
寄り添うのは 無明の闇と 静寂のみ。
「どうして こんなことに」
理不尽な想いが 頭をもたげる。
―――ナゼ キミガシナネバナラナイ―――
握り締めた手から 零れ落ちる 朱(あか)。
君の身体から あふれ続ける 朱。
命の灯火は 既に 遠くへ旅立ち
傷ついた器だけが この腕に横たわる。
なくなってしまったものは 元には戻らない
そして 君も もう戻っては来ない。
「どうすればいいんだよ」
抱きしめた君の身体は 冷たくて
小さな呟きは その冷たさに掻き消えた。
眠りに就いた 君の顔を見るのが辛くて
巡らせた視線の先に 光る一振りの刃金。
灰色の地面に 君を横たえ 歩き出す。
―――ナスベキコトハ ミツカッタ―――
※
闇夜の町を ひたすら駆ける。
刃金を手に ひたすら駆ける。
行く先を阻む 全てのものを 斬り裂きながら
全てを投げ出して ひたすら駆ける。
「走らなければ いけない」
「走り続けなければ いけない」
その想いだけが 身体を突き動かす。
きりと唇をかみ締め 前を睨みつける。
走り続ける そこへ向かって
走り続ける 目的を為す為に
走り続ける ただ一つの感情で
走り続ける 誰でもない 自分の為に
目指すものは ただ一つ
傲慢な神の 手繰る 運命の糸を
この手で この刃金で 断ち切るために―――
そして 永遠を 駆ける 一条の閃光となる
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