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Home › 初里 理衣 › <αの行方> 第四話

<αの行方> 第四話

2005-10-14 | Filed under: 初里 理衣


<花の行方>


 由利菜・サイダルは痣や痩せ過ぎが治るまでかくまわれた。
 そして、ヒクリの極秘調査のため一人任務に就いていたという事にして、堂々とまた戻ってきた。
 父上の配慮のたまもの。
 天下の治安維持軍特別高等警察課総合部隊長、が聞いて呆れる。
 但し既に部隊長の座は次の者が就いているので、戻らない。
 近衛部隊の総指揮官と、王の補佐(警察・警備方面)を勤める事になった。
 これで、慌ただしかった父上も少しは楽になるだろうか。

「近衛隊総指揮と王補佐なんて、ほとんど仕事ないじゃない」
王の部屋で、二人でいると必ず私はお茶とお菓子を持って現れてやった。他に近衛兵もいたが、彼女はもう偉そうに私に話をしない。敬語を使って、変にへりくだる。――そういうところが気にに食わない。
「あなたって、ムカツク女の典型ね」
とか言っても、向かってこない。やんわり笑って、それで済まそうとする。
 私に愛人だとばれたからってなんなのよ。私の気持ちを聞きにも来ないし、それにずっと私をちゃんと見ない。

 ――私をいつまで子供扱いすれば気が済むの? 母や私を裏切った父上もあなたひどいものだわ。だけど、許そう、そう思ったのよ。そうでなければ何も始まらないの。あなたを嫌ったところで、何も解決ではないのよ。
 父上とあなたに裏切られ続けるのは嫌だわ。だけど、私がそれを言えた立場じゃないの。当事者である母上と父上の間のことだもの。
 私はただ、みんなに笑っていてもらいたいだけ。
 父上も、母上も、あなたも、私も。

「おはようございます」
ユナ・コンドウ。父上の部屋にまた邪魔に行く途中、声を掛けられた。私はこの人も気に入らない。まだ二十三で、本来なら近衛隊でも二軍に位置するはずなのに。父上と由利菜・サイダルを取り持つような動きばかりしてきた。これからも変わらないだろう。
「おはよう」
声を返してまた歩き出すと、彼はついてきた。
「父上に用事?」
この先は王の私室がある。ユナは、
「ええ。いいお知らせです」
そう言って軽快な歩調で横を歩いた。
 父上の部屋についたユナは、父上に軽く耳打ちした。その後私は部屋から出された。仕事の話。秘密な事が多すぎる。私はいつも部外者で。でも由利菜・サイダルはそうじゃない。どうして? もう部隊長じゃないのに。私の方が賢いのに。
 ――わかっている。彼女を信頼している。そして私は信頼されていない。それだけのこと。
 私が同大人に成長しようと、きっと父上も母上も、私はただ生意気なだけで、正しい意見を言っても耳を貸す事はなく。弟が王位を継いで、私は適当に嫁がされて、それで、終わりよ。
 要らないんだわ。生意気で、ヒトの図星をついているだけの子どもなんて。もっとしとやかで、父上や母上の言いなりな子どもが理想なんだわ。どれだけ奇麗に咲いた花でも…。

 由利菜・サイダルが父上と何かあやしいと思った時は、恐怖だった。その時母上がいなかったし、父上には見捨てられてしまうんじゃないかと思った。母上も 傷つくし、彼女を「やっつける」しかないと思った。言い逃れ出来ないほどの証拠を目の前に、立ち直れないほどやっつけて、追い出してやろうと思った。ただ それだけで必死だった。ずっと動いたが、もう彼女が父上に近づく事はなかった。そんなはずはないのに。
 その時、ある近衛兵にヒクリをもらった。そして――。
 彼女に言った「秘密」は、ほとんど本当の事だった。悔しくて悔しくて。
 手に残ったヒクリを浄水機にしかけ、従兄弟についていた近衛兵を、従兄弟もろとも殺してやりたい衝動にかられて、現に実行したぐらいだ。
 その後、取調室に来た彼女の偉そうな態度――はっきり言ってこれ以上ないくらい頭に来たが、でも、むちゃくちゃに騒いで、逆にスッキリ。楽になった。そ して「秘密」を語った後の彼女の理解の深さ…人間味のある心意気、誰をも公平に扱おうとするその態度に、ちょっとばかりほだされたようなものだ。本の少し 許す気になったのは。
 ――複雑なものだ。たぶん、こんなふうに許す気になったのは奇跡だったんだろう。本当はずっと彼女を恨んで、嫌って、いるのが当然なのだ。
 彼女を父上に近づけたのは、その、許す気になった軌跡のタマモノだ。近づいてもいいと、そう思ったから。
 でも様子を見ていると、一度別れたようで。父上はまだ由利菜・サイダルに気があるみたいなのに、由利菜・サイダルの方が距離を保とうとしている。
 それが、父上を嫌いでならべつにいいのだ。父上と居たくないからそうしているなら。
 食堂で、彼女が泣いた時。私は腹が立った。
 父上が「一年前に戻りたい」と言って、そして泣いてその場を去るなんて。
 それって、由利菜・サイダルもそうしたいと思っていながらしないんじゃないのかって。嫌いでもないのに父上の気持ちを拒んで。きっと女々しい部分のある 彼女の事だから、母上や私を気にして、偽善者ヅラで優等生ぶっているんだ。誰も傷つけたくないとか、何とか言って。馬鹿じゃない? 馬鹿よ、馬鹿。
ばれなきゃいいと思ってる。父上とそうなった事で、もうそのへんの腹はくくってなくちゃ。母上や私に刺されてもいいぐらいの覚悟して、堂々としてなさいよ!……と。
 私はそこで彼女を責めた。
 そして彼女は、もっと腹の立つ事をした。いなくなった。父上を残して。
 彼女が気に入らない。大嫌いよ。
 昔みたいにずけずけと偉そうにものを言ってくれる方が、私は好きだわ。
 弱ってる由利菜・サイダルなんて嫌い。

 父上の部屋の外で私はずっと入ってよいと言われるのを待っていた。
 きしんだドアノブの音と共に、出てきたのは由利菜・サイダルだった。私を見て、笑顔を向けた。いつもの様な引きつった笑顔ではない。嬉しくてたまらないというような、内側からの笑顔だった。
「ヒクリ作ってた人達みんな捕まったわ。根刮ぎよ、ネコソギっ」
そのはしゃぎっぷりに、思わず私も笑ってしまった。
「よかったね」
言うと、
「うんっ」
…かわいい、と思った。
「ねえ、どこか行かない?」
由利菜・サイダルは両手でこぶしを作ってそう言った。
「どこか?」
「うん。思いっきり美味しいもの食べたい気分なのよ。つきあってよ」
言ってしまってから、私の目を見てはっと表情を変えた。
「ごめんなさい」
言って私の横をすり抜けた。ずんずんと廊下を進む。
 もしかして、彼女が変な態度だったのは、私が嫌っているから、なるべく私に不快感を与えないようにとそう気遣っていたから? 奔放な態度を取れずに、萎縮していたの? 私が、そうさせていた?
 廊下に突き当たり、角を曲がろうとしていた。
 このままじゃイヤ。
 思わず、叫んだ。
「リナ!」
呼ぶと、ふっと足を止めてこっちを向いた。
「私…っ」
言いかけて、何を言っていいかわからなかった。何と言えばいい? ああ、出てこない。付き合うわと言っても、多分彼女は断る。どうやったら彼女が自由な姿勢で私に向き合う? 彼女にわがままに振る舞って欲しければ、私はどう振る舞えばいい?
 出てきた言葉はこれだった。
「私、城の外まで行きたい。有名なあのレストランに行きたいっ」
彼女は笑顔になりながら、頷いた。私は、わがままに振る舞わなければ。
「行きましょうか」

 それから歩いて広大な城の敷地を抜けて、リナの車で街に出た。近衛兵が一人ついていたが、振り払って脱出した。
 レストランに着くまでに色々話す事になった。
 彼女の勤めていた「ミジェル」と言う店は、よくヒクリの売買の場になったりした。ごく、秘密裏にだけれど。彼女は出て行く時に挨拶の手紙を残したが、そ こに添えた注意にもかかわらず、店長は捕まってしまったこと、とか。ユナが最近高価だが変な運動器具を買って、それを使うよう勧められて困る、とか。
 たくさんたくさん話すうちに、私たちは妙に打ち解けた。
 有名なレストランで、私たちは大きな声でこれまずいね、とか言い合い、ふらふら大通りの歩道を歩きながらアイスクリームを食べ、遅くなってから城に帰って二人してユナに叱られた。

 彼女は私を部屋まで送ってくれた。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
言って私がドアを閉めようとすると、
「もう、王とはなんでもないからね」
と、小さく言った。
「私は関係ないわ。あなたと王と、王妃の問題よ」
私が極力笑顔で言うと、
「ありがとう。ごめんなさい、今まで」
と。彼女は頭を下げた。
 私は両手で彼女の頬に触れ、頬に口づけした。
「おやすみなさい」
驚いて頬を押さえた彼女をそのままに、私はドアを閉めた。
 ベッドに潜り込むと、なぜか泣けた。
 何もかもが終結してしまったような、そんな物悲しさがあった。すこし、寂しかった。

 この先どうなるか知れない。けれど。
 私は私で、リナはリナで居て。
 そうよ。誰がなんと言おうと、誰に望まれなくても、誰の理想でなくても、私は私無しには生きていけないもの。

 もう、大丈夫な気がする。
 私は大丈夫。



 4・えんど。





 それから後はごく安定。
 城の中、一部で騒ぎがあったにせよ、国民は平和でいたし。
 王もやっぱりのほほんと政治を遊んでいるし。

 この騒ぎの結果、私は「女性の総合部隊長は何かしら問題を起こす」というレッテルを作り上げてしまい、後輩に申し訳ない事をした。
 でも、おかげでたくさんの物を見つけた。

 はた迷惑な宝捜しだった、全く(笑)。


<αの行方>

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